【連載20】審判員が語る技術選の将来とその展望 Shiga Zin


※連載20は、連載19からの続きとなります。


志賀さん

◆審判員が語る技術選の将来とその展望 後編 (スキージャーナル誌)


志賀仁郎(司会)

 前回に続いてスキージャーナル誌で行った4人の審判員に聞く座談会の後半の部分を紹介したい。技術選手権大会は将来、どうゆう方向に向かったらいいのか、その夢を4人に語ってもらっている。そのテーマは、その時から20年を経ても、今なほ現実的な問題として残されていると考えるからなのである。

 

志賀(司会) 〜 将来にわたって技術選手権大会はどうあったらいいのか

前回は皆さんが審判員として、どうゆう視点で競技を見てきたかについて語ってもらったのですが、ここからは将来にわたって技術選手権大会はどうあったらいいのか、という話しをしていただきたいのですが。

丸山審判員 〜 審判員の質を上げておかなければならないという問題


丸山隆文(甲信越ブロック)

  今年は新しく学連の人達が入って来たでしょう。私ははじめ、彼らが、各種目にどう対応してくるかに大きな関心を持っていたのです。ところが、我満君の急斜面ウェーデルン、総合滑降で見た様に、それぞれの種目に充分に溶け込んで種目をこなしていた。私たちには固定的に種目のイメージがあるのに、突発的にそういう人達が出てくるというのは、かなり大きなプレッシャーになっていた。だけど、彼らは、それらの種目で、それまでのトップデモと呼ばれていたスキーヤーとさして違わないスキーを見せた。これからも、もっと秀でたスキーヤーが出て来るという可能性があるわけですから、そうした事態に対応して審判員の質を上げておかなければならないという問題が生じたのではないかと思うのです。

佐藤審判員 〜 高いレベルの目を養う必要がある

  審判員の合宿というような事をやって、目をそろえて行く必要があると思うのです。技術選手権大会に関しては、審判員のもっと高いレベルの目を養う必要があると。

山田審判員 〜 ジャッジは常に冷静、公正といっても人間のやること…

 審判員の目を合わせるという合宿が必要ではないかと思います。また、選手の立場に立った審査基準が必要になってきていると思っているのです。技術の拮抗した人達に点をつけるわけですから難しさがありますね。
それと全く違った立場から見るとジャッジがそれぞれ県連単位の地区代表的な形が出て来ないか? という疑問が沸いて来ないか。正直言って、良く知っている選手には若干点が甘くなるという傾向はあると思うのです。そして、逆に自分の県の選手がちょっと期待を外れた滑りをしたというときに、必要以上に辛い点をつけるとか。ジャッジは常に冷静に公正な点をつけろと言っても、人間のやることですから。

志賀(司会) 〜 あの人達に採点してもらえるから安心だ

 今は審判員の顔ぶれも安定して来て昔のある時期みたいに 「いったいこの人達、本当にスキーが判っているのかな」といった心配な審判員は居なくなって、今のジャッジのメンバーの様に、「あの人達に採点してもらえているから安心だ」 とするムードが生まれているような気がするね。しかし、もう一歩踏み込んで、審査する人達に勉強の機会を与えないととも思う。

山田審判員

 目合わせをする時間が欲しいですね。審判員同士が会うという機会は少ないですからね。中央研修会か現場かどちらかしかないわけですから。

丸山審判員 〜 ジャッジマンを決める時期を早くすればいい

 ですから、ジャッジマンを決めるのを早くすればいいと思うのです。早く決まれば、デモンストレーターの合宿に出るなり、できる限り選手たちとコンタクトを取りながら、それぞれの滑りを見ておくとか出来ると思うのです。それが無理なら、せめて本選前の2,3日前には会場に入って、練習している各県の代表選手を見ておくとか、そうゆう機会があってもいいと思いますね。

志賀(司会) 〜 これからどうなって行くのか、どうあったらいいのか

 ところで、僕は今、技術選手権大会と言う競技は日本のスキーにとって、物凄く重要な行事になっていると思うのです。これは、よくても悪くても、この競技から日本のスキーが生まれ、日本のスキーの方向も見えてくる。
そうゆう重要な意味を持つ競争が、これからどうなって行くのか、どうあったらいいのか、それぞれ皆さんが持っている夢、あるいは希望といったものを出して欲しいんだけどどうですか。

佐藤審判員 〜 パワーに頼りすぎた若者たちの世界になる?


佐藤俊彦(東北ブロック)

 競技の選手が入ってきて、基礎だけじゃなくて競技的な技術も試されるという大会になっているわけですが、それ自体は非常にいいことだと思うのです。それがレベルを押し上げて、また若い人が挑戦してくるという状況が生まれているわけですが。ただあんまりパワーに頼りすぎた若者たちの世界になることは、どうなんでしょう。
準備される状況が、過酷なものになって、若くて、パワーのある人間でなければ上位をのぞめないといった状況になることは、この技術選手権大会の未来をつぶすことになるのではないかと思うのです。

片山審判員 〜 それは八方だから、あれだけの状況が生まれた

 確かに今年の斜面状況は、急斜面種目に関して言えば、若くて、パワーのある現役のアルペン競技選手でなければ滑れないといった状況はあったと思うのです。それは八方だから、あれだけの状況が生まれたので、場所を変えて行うことになれば、そう心配したようなことにはならないと思うのですが。しかし、八方で、コースの周辺にあれだけの人が集まって、技術選手権大会を見るということは素晴らしいことだと思うのです。


片山強(甲信越ブロック)

志賀(司会者) 〜 選手のスター化をあまり面白く思っていない人達もいる

  この競技が企画され、ほぼ20年近い月日が流れ、この大会が一般のスキーファンにも判る競争に成熟してきたという事ですね。ですから、これから先の10年20年、この技術選手権大会が、どう進化して行くのか、そこに日本のスキーの未来が見えてくると思っているのです。ところが、そうして私の様なとらえ方とは別に、この競争が華やかになり選手たちがスター化して行くということをあまり面白く思っていない人達も今、かなりいると思うのですが、その辺について山田さんはどう考えていますか。

山田審判員 〜 スターを見に足を運んでくれるイベントを育てなければスキー産業はどんどん細る


山田隆(南関東ブロック)

 それは、やはり時代の流れですよね。いまスポーツは大きなファッションとつながっていますね。日本でもプロ野球を見る人は増え続けています。観客は、試合を楽しむと同時にスターを見に来てるわけです。長嶋や王の名前がコールされるだけで、大歓声が上がる。技術選手権大会も日本のスキー界のステータスになっている。これを否定したら、頂点のないスポーツはすたれていくのです。
話を広げるとスキー業界が、このイベントを活性化させるために、スキー連盟、索道協会といった関係者の全てが、もっとスキー環境の整備に力を注いで欲しい。その一環としてああゆうステータスを育てていくという姿勢を持って欲しい。 「スターが生まれちゃまずい。アマチュアの思想はこんなもんじゃない」 といった古い観念は捨てて欲しい。もうこれからは伝統だけで人が集まり金が動くということはない。まして足の先から頭のテッペンまで50万円以上もかかる道具を使ってプレイするスポーツに、きれいなことだけでは済まないんじゃないかと思います。本当に環境整備すると言うのなら、高価な用具を提供するというところにもキチンとしたルール、マナーが話し合われなければならないとも思うのです。
多くの人達に愛されるスター、そのスターを見に人々が足を運んでくれる競技会、イベントを育てなければスキー産業はどんどん細っていっちゃうと思うのです。

志賀(司会者)

 うん、そうね、世界のアルペン競技でも、スウェーデンの田舎から出て来て、人の前で言葉も充分話せなかったステンマルクが、今、世界のトップスターの地位にいる。ということがおきるわけだから。

丸山審判員 〜 本人の自覚が本物のスターになるかどうかを決める

 僕は、スターというのは当然生まれてくると思うのです。どんなスポーツにも、そういう人が出て来る。ただ、あと一番大事なことは本人の自覚ですよね。それがないと、あといろんな事が出て来る。スターとして扱われるようになると、その本人は悪い気はしませんよね。しかし出るクイは打たれるということで面白くない人もいるでしょうし、とにかく本人の自覚が、スターになった人が本物のスターになるかどうかを決めると思うのです。パーッと出て来て、パーッと散ってしまう様なスターは、私たちは望んでいるわけではないのです。

志賀(司会者)

 この座談会よりも早い段階でSAJの幹部の人達と話し合ったのですが、その時も、スター化というのは排除すべきではない、大いに盛り上げて行こうというふうに話していた。連盟の姿勢も大きく変わって行こうとしていると思うのです。それは、時代の流れになっているんだということです。

山田審判員

 僕は業界でメシを食っている人間として感じるのですが、スキーの世界は稀に見るほどの波の立たない世界なんです。これだけ大きな、何千億円という金が動く産業なのに、スターに支払う金額の何百万で騒いでいる。かなり平和な世界だと思うのです。

志賀(司会者) 〜 日本マーケット動向を支配しているのは、技術選

 世界のスキーマーケットが、すさまじい不況にあえいでいる中で、たったひとつ東洋のスキー大国日本でスキーが売れているという状況から、ヨーロッパのスキーメーカーが日本のマーケットの動向を支配しているのは、技術選手権大会だということに気がつけば、エランはステンマルクを技術選手権大会に送ってくる。ということも起きると思うのです。
ステンマルクが技術選手権大会で勝つという事態になったら、日本でエランのスキーが小賀坂より売れるという状況も生まれる可能性がある。日本の技術選手権大会に出るために何億円かの金が支払われて世界のトップスキーヤーが滑るという状況は、必ず生まれてくると僕は思っているのです。そして、日本のスキーはそうした事態に対応する体勢を整えておかなければならないと思うのです。

山田審判員

 そうゆうことになれば、販売促進に大きな力になると思うのです。それをSAJが排除するという方向に逃げれば、この世界は細ってきてしまうと思うのです。

志賀(司会) 〜 このイベントをどう、とらえ、どう対処して行くのか

 

だから、ヨーロッパで今、スキーが全然だめになって来ているでしょう。そうゆう中で、日本だけまだ大きなスキーブームと呼べる状況があり、大きなマーケットがある。
その中に、技術選手権大会という極めて特異な競争が日本にあり、その競争が日本のスキーブームを引っ張っていると、ヨーロッパのメーカー達が気がついた。という時代に入っているのだと思っているのです。そこで、日本のこれからのスキーの世界の動向は、このイベントをどう、とらえ、どう対処して行くのかにかかっていると思うのです。

◆今に置き換えても何も驚くような内容でない

 ここまで2回にわたって紹介した、約20年前の座談会の記事だが、驚くべきことは、20年経った今、読んでも何も不思議に思える部分がない。ということではないだろうか。「そうか昔は技術選手権大会を審判すると言うことは、そうゆうことだったのか」 と読み返して思うことがないのである。そして、その時話し合われた技術選手権大会の未来、日本のスキーの夢、それも今に置き換えても何も驚くような内容がない。
それを今、どう考えたらいいのか、私は考え込んでいる。


連載「技術選〜インタースキーから日本のスキーを語る」 志賀仁郎(Shiga Zin)

連載01 第7回インタースキー初参加と第1回デモンストレーター選考会 [04.09.07]
連載02 アスペンで見た世界のスキーの新しい流れ [04.09.07]
連載03 日本のスキーがもっとも輝いた時代、ガルミッシュ・パルテンキルヘン [04.10.08]
連載04 藤本進の時代〜蔵王での第11回インタースキー開催 [0410.15]
連載05 ガルミッシュから蔵王まで・デモンストレーター選考会の変質 [04.12.05]
連載06 特別編:SAJスキー教程を見る(その1) [04.10.22]
連載07 第12回セストのインタースキー [04.11.14]
連載08 特別編:SAJスキー教程を見る(その2) [04.12.13]
連載09 デモンストレーター選考会から基礎スキー選手権大会へ [04.12.28]
連載10 藤本厩舎そして「様式美」から「速い」スキーへ [05.01.23]
連載11 特別編:スキー教師とは何か [05.01.23]
連載12 特別編:二つの団体 [05.01.30]
連載13 特別編:ヨーロッパスキー事情 [05.01.30]
連載14 小林平康から渡部三郎へ 日本のスキーは速さ切れの世界へ [05.02.28]
連載15 バインシュピールは日本人少年のスキーを基に作られた理論 [05.03.07]
連載16 レース界からの参入 出口沖彦と斉木隆 [05.03.31]
連載17 特別編:ヨーロッパのスキーシーンから消えたスノーボーダー [05.04.16]
連載18 技術選でもっとも厳しい仕事は審判員 [05.07.23]
連載19 いい競争は審判員の視点にかかっている(ジャーナル誌連載その1) [05.08.30]
連載20 審判員が語る技術選の将来とその展望(ジャーナル誌連載その2) [05.09.04]
連載21 2回の節目、ルスツ技術選の意味は [05.11.28]
連載22 特別編:ヨーロッパ・スキーヤーは何処へ消えたのか? [05.12.06]
連載23 90年代のスキー技術(ブルーガイドSKI’91別冊掲載その1) [05.11.28]
連載24 90年代のスキー技術(ブルーガイドSKI’91別冊掲載その2選手編) [05.11.28]
連載25 これほどのスキーヤーを集められる国はあるだろうか [06.07.28]
連載26 特別編:今、どんな危機感があるのか、戻ってくる世代はあるのか [06.09.08]
連載27 壮大な横道から〜技術選のマスコミ報道について [06.10.03]
連載28 私とカメラそして写真との出会い [07.1.3]
連載29 ヨーロッパにまだ冬は来ない 〜 シュテムシュブング [07.02.07]
連載30 私のスキージャーナリストとしての原点 [07.03.14]
連載31 私とヨット 壮大な自慢話 [07.04.27]
連載32 インタースキーの存在意義を問う(ジャーナル誌連載) [07.05.18]
連載33 6連覇の偉業を成し遂げた聖佳ちゃんとの約束 [07.06.15]
連載34 地味な男の勝利 [07.07.08]
連載35 地球温暖化の進行に鈍感な日本人 [07.07.30]
連載36 インタースキーとは何だろう(その1) [07.09.14]
連載37 インタースキーとは何だろう(その2) [07.10.25]
連載38 新しいシーズンを迎えるにあたって [08.01.07]
連載39 特別編:2008ヨーロッパ通信(その1) [08.02.10]
連載40 特別編:2008ヨーロッパ通信(その2) [08.02.10]
連載41 シュテム・ジュブングはいつ消えたのか [08.03.15]
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連載43 日本の新技法 曲進系はどこに行ったのか [08.05.03]
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連載45 日本スキー教程はどうあったらいいのか(その1) [08.06.04]
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※使用した写真の多くは、志賀さんが撮影されたものです。それらの写真が掲載された、株式会社冬樹社(現スキージャーナル株式会社)、スキージャーナル株式会社、毎日新聞社・毎日グラフ、実業之日本社、山と渓谷社・skier、朋文堂・スキー、報知新聞社・報知グラフ別冊SKISKI、朝日新聞社・アサヒグラフ、ベースボールマガジン社等の出版物を撮影させていただきました。

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